ben美術館という名のアトリエより
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ben(メモ)
蟻。アリ。ありんこ。 僕は、「ありんこ」と呼ぶのが、なんだか好きです。 リト村から帰って来た旅人からこんな話を聞いた。 そら寒い、冬のある日。 蟻の行列を見つけました。 蟻たちは、冬なのにせっせと食べものを運んでいます。 蟻の行列をじっと目を凝らして見ることにしました。 すると、蟻の動きがよくわかるばかりか、声まで聞こえてきたのです。 「どーれ、なんとかこれで、明日のありんこさんと交代できるかな♪」 不思議なことに、行列すべての蟻みんなが、そう歌いながらたべものを運んでいたのです。 「どーれ、なんとかこれで、明日のありんこさんと交代できるかな♪」 一匹の蟻に聞いてみることにしました。 「アリさん。アリさん。どうしてみんなで、そう歌いながら働いているの?」 「うん。今日のありんこさん、みんなで決めたんだ。昨日のありんこさんも、たぶんそんなことを歌ってたんじゃないかな?」 「え、昨日?昨日とか今日とか明日とか。交代交代で休んでるの?」 「ううん。今日の僕らは、今夜眠りにつくとね、夢の中で交代するんだ。次のありんこさんと。だから今日の僕らは、今夜で終わるんだよ」 「えっ。ということは、ねえねえ。アリさん。あなたの一生は一日だけなの?」 「うん。そういう言い方もできるかもね。ありんこさんの世界にはない言葉だけど」 「なら、どうして、もっと今を楽しまないの?一生が一日だけなんでしょ。短すぎるよ」 「あのね。今日の僕らがあるのはね、昨日のありんこさん達がたべものを置いてくれてたおかげなんだ。だから僕らもね、冬だけど穴からでてきた。僕らも、今夜交代するありんこさんが明日の朝、困らないようにしておきたいんだ」 「ふうん。そうなんだ」 「あれ。列からはずれちゃってる。もうそろそろ仕事にもどらないといけないや。」 アリさんはそういうと、別れ際にこっそりと、こう教えてくれました。 「土神様がこう言ってたよ。『人には、言っても信じないけど、人も君たちありんこと同じように、夢の中で次の人と交代するんだよ』って。」 ・・・・旅人の話は、そんな内容のものだった。 そして旅人は、はなし終えたあと、電柱のわきにはえた草のちいさな白い花を見つめながら、ぽつりとこう言った。 「一日で僕の一生が終わるなら、僕も今夜、夢の中で次の人と交代したい」 ありんこの話でした。本日はこれにて失礼致します。ben
03/04 19:33 | benメモ |